注1: フィン ランド語には母音の前舌・後舌による母音調和があり、派生辞の母音の質は 語幹のそれに従う。
注2: グロスでは形態素をハイフン - で、 また複合語の成分を等号 = で区切った。またマーカーの顕在しない語形の もつ情報や、複数の文法情報を表すマーカー(いわゆる鞄型形態素)のグロス は、ピリオド . に続けて表記している。 その他、例文に用いた略号は次の通りである:
&=列挙の小辞; 1,2,3=人称; 1inf=第1不定詞; 2inf=第2不定詞; 3inf=第2不定詞; abl=奪格; ade=接格; akk=対格; all=向格; be=コピュラ動詞; caus=使役の派生接尾辞; comp=比較級; ela=出格; ess=様格; gen=属格; ill=入格; imp=未完了過去; ine=内格; kond=条件法; MApt=動作主分詞; neg=否定の小辞; nom=主格; par=分格; pass=受動; past=過去; prpt=現在分詞; pl=複数; pspt=過去分詞; px=所有接尾辞(+人称,数); q=疑問の小辞; rel=関係代名詞; sg=単数; sk87=フィンランドの週刊誌Suomen Kuvalehtiの1987年の記事を集めたコーパス; sup=最上級; tra=変格; Vneg=否定動詞
注3: 以下では、 「他動詞文から派生した」使役構文という表 現を、「意味的に対応する非使役文が他動詞文である」使役構文、 の意味で用いている(``noncausative equivalent'' Comrie 1975:2─3; ``nichtkausative Korrelate der entsprechenden kausativen Konstruktionen'' Nedjalkov et.al. 1973:274)。「派生」は便宜的な概念に過ぎず、2つの文の間に 何らかの統語的な派生関係を想定する立場をとるわけではない。
注4: フィンランド語では、間接目的語を独立した 文法関係として設定する強い根拠はない。
注5: このリスト は、戦前に収集されたデータを用いて作成された フィンランド語辞典 Nykysuomen sanakirja の見出し語 から、使役動詞と解釈できるものをひろって作られたものである。
注6: 使役の 意味を強調するために、使役の派生辞が二重に付加されることがある:
(例) etsi-a" 「探す」 → etsi-tta"-a" (探す-caus-1inf) 〜 etsi-ty-tta"-a" (探す-caus-caus-1inf) 「探させる」
接辞が二重についた場合でも、 接辞が一つだけつく場合と実際の意味は殆んど変わらない (Kyto"ma"ki 1978: 147,149; cf. Pennanen (1986))。
注7: ここで いう定形動詞は、節の主動詞として使役動詞が現れている例を まとめたもの(計87例)で、本来の定形動詞に加え、voi-da 「できる」; osa-ta「できる」; saatta-a「かもしれない」; pita"-a"「ねばならない」等の 助動詞とともに第1不定詞で現れた使役動詞、および分詞構文中の分詞として現れた 使役動詞を含む。このグループに関しては、少なくとも構造による主語、 目的語の出現制約はない。非定形は、残りの例をまとめたものである。
注8: このうち、1., 2. と 3. の違いは Nykysuomen sanakirjaとSuomen kielen perussanakirjaの新旧2つの フィンランド語辞典でも区別されている。1. と 2. は、両辞典とも 同じ項目で扱っている。
注9: 興味深いことに、 それ自体明らかに使役動詞である teetta"a"に さらに使役の派生辞をつけた動詞 (注6参照) teeta"tta"a"は、sk87コーパスから 3例見つかったが、その意味は全て意味 1. (「作らせる」)であった。
注10: ただし、 このような例の文法性の判断は、人によって 大きく異なり、実際には、接格の被使役者を 含む使役構文を常に不自然と感じる人から、 接格被使役者の使用にまったく抵抗を感じない人まで、 さまざまらしい。Kyto"ma"ki (1989:73─74) は、 方言による違いの可能性を指摘しているが、 詳細は不明である。