本発表では、フィンランド語の動詞 pan-na `put' と saa-da `get' がとる 「主語 + 動詞 + 目的語 + 第3不定詞入格」 という構文について、両者の用法の違いを 雑誌コーパスからの用例に基づき比較検討した。
2つの動詞を主動詞とする構文は、1) 第3不定詞の controller (いわゆる「意味上の主語」)がともに目的語である、という 共通の統語的性質に加え、 2) 動詞の主語、目的語共に高い頻度で 有生名詞が現れ、 3) ともに主動詞の意味が 抽象化しており、さらに 4) 目的語と第3不定詞が 表す出来事の達成が含意される、という意味的な特徴を共有している。 ゆえにこの2つの動詞がつくる構文は、共に「分析的使役構文」 という、より一般的な構文のグループに属すると 考えられる。
このような共通性にもかかわらず、 動詞の違いにより、構文が表わす意味はかなり異なる。 直観的には、panna と saada はそれぞれ「直接使役」「間接使役」 といえるような、使役者(主語)の働きかけの強さの 違いを表しているように思われる。この観察を裏づける ように、使役者のはたらきかけが直接的であることが要求されるような 状況には panna のみが用いられ (例文1)、 また被使役者(目的語)へ直接はたらきかけることが できないような状況では saada しか使えない (例文2)。 (例文では、構文の主動詞をボールドで、第3不定詞を下線で示している。 グロスは省略した。)
Muutama-t joukkuee-t pane-vat raha-a haise-ma-an
「いくつかのチームはお金を匂わせて(i.e. 使って)いる」
show, joka saa Irangate-n unohtu-ma-an
「イランゲート事件が忘れられるようにさせるショー」
しかし、saada を主動詞とする構文の用法記述は、 使役者の間接的はたらきかけ、という観察だけでは充分でない。 第3不定詞として現れる動詞の種類を調査すると、 saada と共起する第3不定詞には、 対応する他動詞の目的語を主語にとる自動詞が 非常に多いことがわかる (e.g. unohtu-a [intr.] `be forgotten' (例文2) < unohta-a [tr.] `forget')。 つまり、saada と共起する動詞の多く (約70%) は、行為の結果が その行為の主体自体に何らかの影響を及ぼす種類のものなのである。 このことから、本発表では、使役者のはたらきかけを 明示する panna に対し、 saada を主動詞とする構文は、使役の結果 起こった変化を積極的に表す傾向があることを指摘し、 saada のもつ「使役の間接性」は、 むしろ、話し手の関心の所在が使役の結果にあることから 生じる二次的特徴であることを論じた。