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1997年6月28日(土) 第24回ウラル学会 (於 成蹊大学) 発表要旨
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フィンランド語の複数属格・分格における語尾異形態の分布について
―コーパスデータからの視点―

千葉 庄寿 (ちば しょうじゅ)

フィンランド語の名詞類のうち、 短母音で終わる3音節以上の語幹のいくつかには 複数属格と複数分格にそれぞれ2種類の格語尾が起こりうる。 本発表では、このシステマティックな「ゆれ」の現象に コーパスからの量的なデータを用いた分析を試みた。 基礎資料としてフィンランドの週刊誌 Suomen Kuvalehti の1987年度の記事を集めた電子コーパスを用い、 採取した2種の語尾をもつ語形を分類し、 語幹グループ毎に語尾選択の傾向を調査した。

発表では、複数属格と複数分格で著しく異なる語尾選択 傾向を示す iで終わる語幹に注目し、コーパスデータをもと にその実態を報告した。最も著しい不一致は、語幹の後 ろから2番目の音節が短い i 語幹 (例 ikoni 「イコン」) にみられ、コーパスでは複数属格で B 語尾の例が6割弱 を占めるのに対し (A 語尾 (ikone-i-den) 41.6%, B 語尾 (ikoni-en) 58.4%)、複数分格では 逆に A 語尾が高い出現率を示した (A 語尾 ( ikone-i-ta) 86.7%, B 語尾 (ikone-j-a) 13.3%) 。

このグループの i 語幹名詞類の特異な振舞いは 先行研究でも報告されている。そこで、 このデータを Uosukainen (1969, [2]) の 19 世紀後半の文語 データ、および Itkonen (1957, [1]) の意識調査の結果と比較した。 その結果、複数属格において分布に異同がみられ、前世紀には B 語 尾が圧倒的であったのが、現代フィンランド語では A, B 両語尾を容認する方向に変わりつつあることがわかった。 一方複数分格ではすべてのデータを通じ分布は比較的安定していた。

さらに、コーパスデータの内容分析から、複数属格・分格 の間の語尾選択傾向のずれは全ての i 語幹に一様に みられる特性ではなく、i 語幹のなかでもとりわけ -li, -ri でおわる語幹に特徴的な分布であることが わかった:例えば、3音節の語幹 √短音節.li/ri (例 la"a"ka"ri 「医者」) において、 複数属格でA, B の語尾の頻度がほぼ拮抗するのに対し、 複数分格ではわずかな例外を除き殆どが A 語尾をとって現 われており、その選択比率は 97% にも なった。いっぽう、対応する √li/ri 以外の語幹では一転 して複数属格・分格ともに B 語尾が多数を占めていた。 このような √li/ri 語幹と他の i 語幹との 分布傾向の相違は、ゆれが起こる他の i 語幹 グループ内にも観察された。

√ri/li 語幹になぜこのような特異分布が現れる のか、本発表でははっきりとした結論を出すことができなかった。 より詳しい調査の必要と合わせ、今後の研究課題としたい。

参考文献(抄)

文献[1]
Itkonen, Terho 1957 "Mellakoihin vai mellakkoihin?", Viritta"ja" 1957: 259―286.
文献[2]
Uosukainen, Riitta 1969 Matalatamatalaa, avannoita avantoja, ratkaisuidenratkaisujen? Unpublished Suomen kielen sivulaudaturtyo", Helsingin yliopiston Suomen kielen laitos.

(この要旨は「ウラル学会通信」第40号(1997年8月発行) に掲載された内容と同一のものです。)

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